アトラクション終わるみたいに叡電が出町柳のホームに参ります

高橋由香里「時計台ラジオによれば午後は雨」(『京大短歌』23号:2017年)


(☜9月20日(水)「学生短歌会の歌 (15)」より続く)

 

学生短歌会の歌 (16)

 

「出町柳」は京都の賀茂川と高野川の合流地点あたりを指し、京阪電鉄と叡山電車の駅名でもある。ここでは後者、叡山電車の終着駅としての「出町柳」である。
 

土地ごとの空気は暮らしてみないと分からないものであるので、言葉にすることは難しいが、京大に電車で通う学生の多くはこの出町柳という場所や駅に馴染みがあったのではないだろうか。私自身は、大学のすぐそばに住んでいたため、出町柳と言えばいつも人を迎えたり、見送ったりする場所であった。
 

ちんまりとしたかわいらしい叡山電車が、駅のホームに入ってくる。それを遊園地などのアトラクションが終わる様子に見立てた点が歌の要である。叡山電車を「叡電」と約めた表現にも親しみが感じられ、出町柳を訪れたことがない人にもその場所の空気が伝わるのではないだろうか。
 

面白いのは、「ホームに来る」ではなく「ホームに参ります」という表現になっていることだ。まるでホームのアナウンスのようであるが、どこか私自身が叡電を運転しているかのような感覚が感じられる。これもまた、親しみのあらわれであろう。
 

輪郭がまた痩せていた 水匂う出町柳に君が立ちいる  永田紅『日輪』
すべりだす叡山電車乗り合った浅い眠りに光を混ぜて  東郷真波「越境」(同人誌「一角」所収)

 

京大短歌会出身者が「出町柳」や「叡山電車」を詠んだ歌を引いた。
 

出町柳を起点に、アトラクションのように電車はやってきて、また出発する。その繰り返しは、それこそ遊園地の世界のようであり、学生生活そのものでもあるかもしれない。
 

いつまでも続くようでいて、いつかはそこから去っていくものなのだ。
 
 

(☞次回、9月25日(月)「学生短歌会の歌 (17)」へと続く)