光森裕樹


ひとしきり思いを馳せる 自販機のしくみに まだ見ぬきみの新居に

安田茜「Caramel」(『京大短歌』23号:2017年)


(☜9月25日(月)「学生短歌会の歌 (17)」より続く)

 

学生短歌会の歌 (18)

 

キャラメルがつつんであった紙のようきみとたくさん出かけたことが
新生活応援セール きみは傘わすれてビニールのをまた買って

 

連作のなかから「きみ」が登場する歌を引いてみた。相手が恋人か友人かは分からないが、一緒に過ごした時間がとても大切なものであることが描かれている。
 

一首は、包み紙にのこるキャラメルのかたちやかすかな匂いが、きみとの思い出のありかたに繋がる。すこしつるっとした包み紙の触感も、なんだか懐かしく思い出される。
 

二首目では、「新生活応援セール」で溢れる街を一緒に歩いているのだろうか。たびたび傘を忘れてしまう「きみ」が、しょうがないけれどもどこか愛おしい。同時に、同じ傘に入るわけでもない関係性であることがさりげなく描かれている。
 

だから、そんな「きみ」が新居に引っ越しても、それがどんな部屋なのかを見ることはない。それは、自動販売機のしくみと同じくらい身近にあるもので、それでいて、実際その中を確認する機会はほとんどないものなのだ。
 

新居にはきっと、持っていくのを忘れてはまた買ってきてしまうビニールの傘が溜まっているに違いない。ひとしきり馳せる思いの向かうさきは、自販機や新居の中身でもあり、当然「きみ」という存在そのものでもある。
 
 

(☞次回、9月29日(金)「学生短歌会の歌 (19)」へと続く)