大松 達知


やや重いピアスして逢う(外される)ずっと遠くで澄んでいく水

 『くびすじの欠片』野口あや子(2009)

 

 1987年生まれの作者。

 手を触れたら、ほろほろと世界が壊れてゆくのではないかと思うほど、せつなくきらきらした世界を描いている。女性の同性愛の気配すら感じるほどの透明感。それに、言葉を信じる力。

 それが、この歌集の特長だと思う。

 

 この歌。二十歳前後の女性が、いつもよりも「やや重い」ピアスをして男性と会う(にちがいない)のはどんなときか。自分の心がとらえどころ無くて、自分を物理的に落ち着かせてくれるような、重みのあるピアスに頼るのかもしれない。重いということは、装飾が大きいのだろう。

 想像するしかない。

 それが、(外される)という。

 これは心の中の、声にもならない声をト書きに仕立てたものだろう。やや重いピアスをしてまで鎧ったつもりの自分が、外部の力によって、ゆるやかに押し広げられてゆく。

 それを、作者、というかこの歌の主人公は、じっと受け入れている瞬間の思いなのだ。

 

 「遠くで澄んでいく水」とは、処女性の象徴かもしれない。自分の中の水が汚されてゆくのと反比例するように、遠くの水は澄んでいく。水が循環してゆくイメージもある。

 淡くて屈折のある作者の気持ちが溶けてゆく瞬間の実景であり、同時に心象風景でもあると思った。