吉田隼人


仰ぎ見て我が天才を疑わず天地ひれ伏せ十六の夏

榎本ナリコ『センチメントの季節7 二度目の夏の章』(小学館:2001年)

 早稲田短歌の同期生が部室にもってきたマンガで、大学文芸部員のつくる短歌が出てくるものがあった。これがそれ。マンガの作者が実際に作っていた歌のようで「物語中の短歌は全て、自作のものです。ただし、現在詠んだものではなく、むかし詠んだものを物語にあわせて抜粋したのです。これが本当に高校生の頃に詠んだものだったらカッチョイイのですが、実際は7、8年前? ちょうど報われようがない片恋をしていた頃のもの。(中略)」冒頭の歌だけ本当に高校生のとき書いたような気がしますが、疑似記憶かもしれません」とある。その「冒頭の歌」が掲出歌。
十六歳の夏の全能感と現在、大学文芸部員となった主人公の不能(性的不能と創作不能が重なっている)とを対比して展開するほろ苦い物語は、無理に延命された青臭さがぶつりと断ち切られる切ない終わりかたをするが、ともあれ十六歳でこれだけ高らかに「おごりの春」のうつくしさを歌い上げられるのはひとつの恩寵といっていい。こちらも十六のころから歌を詠みはじめた口だが、陰陰滅滅としたうさ晴らしのような歌ばかり詠んでいたものだから、こう詠める若さをもちえたことがうらやましい。もっとも漫画の作中でもこの歌だけが浮いていて、作者の言によれば後年になって作られたらしい他の歌には暗い陰を負わされたものも多い。興味のある向きは一読を。