永井陽子『小さなヴァイオリンが欲しくて』(2000)
1951年に生まれ、2000年に他界した作者。
自分を励ますだけでなく、あらゆる現代人を励ます一首だ。
毎晩、寝るときに、明かりを消す。それも「全部」消す。
どんな人だって、完璧ですべてやり終えた一日というのはごく稀だろう。まだやりたいことややるべきことが残っていながら、それを明日の自分に託して眠りにつくのだ。
そう、新しい明日に旅立つためには、「ともかくも」明かりを消して眠らねばならない。
少しの心残りを明日への活力として生きているのだ。
しかし、とかく賢かったり真面目だったりする人は、その日一日を振り返って、自分がきちんと生きたのかどうか点検するのではないだろうか。
そこで納得することは稀だろう。そうして、少しづづ少しづつストレスのようなものが溜まってゆくに違いない。
しかし、この歌では、生身の人間が生きているというのは「つじつま」が合わないことなのだ、それでいいのだ、ときっぱり言ってくれる。
現代人は、この「つじつま」を合わせようとし過ぎているのではないか。
朝のうちに書いた「やることリスト」が消化しきれていないのは普通だし、予定外の仕事やメールや来客に翻弄されることも多い。
それでも、そんなものだよ、と言ってくれる。
結句の「よし」というきっぱりした言い方が強くて好きだ。