露や花花や露なる秋くれば野原に咲きて風に散るらむ

藤原家隆(引用は塚本邦雄『雪月花』読売新聞社、1976年による。旧字は新字に置き換えた)

 上の句が心地よい。露は花なのか、花は露なのか、それすらも危うくなるほどの秋がやって来る。野原には露が、いや花が咲き、花は露のように吹く風に散っていく。

露や花花や露なる秋、という始まり方が一首を軽快にして、花が露のように散る切なさを和らげて、むしろそのはかない美しさに目を向けさせる。はかないが、しかし爽快なようでもある美である。その爽快感と一抹の寂しさとが入り交じった感覚は、秋の訪れを告げるのにふさわしいものであるだろう。