吉田 隼人


パンセパンセパン屋のパンセ にんげんはアンパンをかじる葦である

杉崎恒夫『パン屋のパンセ』(引用は『短歌タイムカプセル』書肆侃侃房:2018年)

パンセといえばパスカルの断想録であるが、パンセという言葉のノリからパン屋が導かれる上句はやけっぱちのような悪ふざけのような感じで小気味良く始まる。パンセパンセと繰り返すと深遠な『瞑想録』から離れて愉快な擬音語に変わってしまう。

さてパスカルならぬパン屋のパンセには、にんげんはアンパンをかじる葦である、と書かれてある。「人間は考える葦である」をもじって何かうまいことを言うというのはもう飽き飽きしているのだが、アンパンをかじる葦であるは何もうまいことを言っておらず、そこがよいのだと思う。パンセパンセと軽く始まったそのままに軽く、取り立てて何の意味もなく終わるというのがとてもよい。単なる「パン」という音だけに導かれて愉快に終わる一首というのが実に素晴らしい。いつかはこういう多幸感に満ちたような歌を詠んでみたいと思う。