ほんとうに夜だ 何度も振り返りながら走っている女の子

平岡直子『みじかい髪も長い髪も炎』

 

 

一字空け後がとても印象的で頭に残っている歌。
ありそうでもあり、なさそうでもある気がします。

走りながら何度も振り返っている。その理由はわからない。
見ている語り手のほうは、理由がおおむねわかるのかわからないのか、それもわからない。
わたしは第一印象で、え、追われてる?と思ったのですが、
それはドラマや映画の見過ぎな気もします。
しかし不穏な感じというのは、雰囲気としては一筋あるかもしれない。

走りつつ振り返るのはそんなに自然な動作じゃないし、走りにくかろうと思う。
夜なのであたりは静かで、その、少し不自然に走っているタカタカタカッという音が
聞こえるようである。
服が風を切る様子、上からの灯りとか、なんとなく想像できる。
そのあたりで「ほんとうに夜だ」はつかまえられる。
わたしも深夜に徘徊みたいなことをするのが好きなのですが、そういう雰囲気って歌からよく感じられる気がする。
夜はわりと人が走っている。まあ、その人たちはランナーですが、けっこう寡黙に、シュッシュッと走って行く。昼とは街の使われ方が違う感じがする。

音の構成の話でいくと、この歌は二句「夜だ 何度も」の間に一字空けが入っていて、文字通り句割れする。
この点が韻律的に大きく、二句の音を分断するので、通常の音の流れが壊れ気味になり、
わたしの場合だと、一字空けの前も後もフラットに読み下す感じになります。
細かく言えば「振り返り/ながら」も、句跨がりっぽく/のところで間をとらないでそのまま読み下すように思えます。
この、けっこう冷たい感じの韻律が手伝って、「女の子」への感情移入をあまり感じない気がします。

女の子はよくわからないまま何度も振り返りながら、走り過ぎていく。
本当に夜だなと思う。
基本的にはこれだけ。夜あるあるでもないけど、「ほんとうに夜だ」と思う以上の出来事でもない。このへんの感じにぐっとくる。

 

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