今野寿美『かへり水』(2009年)
明治の初めごろに書かれた歌評を見ているらしい。
いとよろし
いといとよろし
こんな風にいわれたらどんなに嬉しいことだろう。
ほめられた事実だけでなく、このことばの、はずむような勢いが気持ちいい。どんどん続けて大きな赤丸を歌の上につけられてゆく感じがする。
この評言には、文学に対する時の陰りがない。
文学というものは、よい、わるいと上から判断できない。
そこが文学の文学たるゆえんだが、うっとうしいといえばうっとうしいか……。
この口調は、お師匠さんがお稽古で使うようなもの。この割り切り方に、聞く方も一点の曇りもなく従ってゆけばいい。
そこが「快晴」。
下句は、状況を巧みに説明しつつ、調子よく漢語を重ね、明治初めの時代の勢いも感じさせるものとなっている。
文学の影をひきずらぬ歌に対する、郷愁のようなものが含まれていて、胸の奥がなんだかむずがゆい。