大松 達知


おだやかな眼差しかへすキリンたちいつも遠くが見えてゐるから

田中教子『乳房雲』(2010)

 

 第三回中城ふみ子賞の受賞者。

 受賞作が「乳房雲(にゅうばううん)」と題した連作。動物園をテーマにしたもの。

 ご自身の乳癌による手術、離婚などの事実を底流させながら、動物に向かう人間と言うものの不可思議さ、不気味さを出している。

 この一首は、動物園にとらわれている野生動物という状況を知れば、話はややこしい。

 囚われの身でありながら、そして、本来サバンナなどの遠くを見はるかすためにある眼をもって、日本の人造の世界を見つめているキリンなのだ。

 しかしそういう悲しみを超えて、ただ「遠くが見えてゐる」という事実のみに、このキリンは安堵し、穏やかな様相を見せている。

 悲しい光景である。

 さて、この歌集は、右ページが縦組みの歌、左ページが横組みの英訳という構成だ。(翻訳は、アメリア・フィールデン氏、小城小枝子氏による)

looking back at me

so calm, these giraffes

because

they can always see

such a distance

となっている。キリンが複数形になっていることがわかる。

 こういう単複の問題は、芭蕉の句における、古池に跳び込んだカエルの数でも議論があるところ。興味ある試みである。