星野満寿子『西暦三千年の雪』書肆侃侃房,2018.05
二度、転覆のある歌。
「口笛、笑い、鳥の声」が「朗らかな」にかかるようでありながら、立ち止まってみると、それらは形容せずともおのずから「朗らか」であるものたちであると気がつきます。
ここで挙げられている三つの要素は、冒頭の「真夜中の」という場面の設定がなされることで、がらりと表情を変えるものたちでもある。そうすると、その三つのすべてが、なんだか不気味に歌の中で響き渡ってゆくようです。
ところが、そこであらわれるのが「朗らかな」という形容詞。これは「週末」にかかっているようでありながら、最後の「死者たち!」までを包み込んでいる。
おばけたちの賑やかな晩餐、のような光景の思い浮かびます。この歌の世界では、かれらも「週末」が嬉しいのでしょう。
生身を離れても、にんげんに近しい習性があるのだということは面映ゆく、さきほど感じかけた「不気味」な感じは成仏されてゆきます。
ここでは、形容されるものたちを捉えなおすことで、一首のなかに明確なストーリーの展開が生まれる。
そのスピード感ゆえに、読み手の心をほっと軽くするような歌だと感じました。
「うつくしい」歌に夢中になっていた季節を過ぎて、最近はふしぎと「こわい」ような歌に心惹かれることの増えた気がします。なぜかしら…。