佐原キオ「みづにすむ蜂」『ねむらない樹』vol.8,2022.02
第4回笹井宏之賞のなかで、染野太朗個人賞に選ばれた作品から。
「ほのほだけをあなたに渡す」。にんげんである限り、そんなことできるんだろうか、
あるいは何かの比喩だろうか、と、考え込んでしまう。
しかし、歌の腰である三句目の「茶番でも」によって、その行為はあくまでこっけいな「茶番」であることを指示する語り手。
そのうえで、この「茶番」はnot真剣(真剣の対義語ってなんでしょうか)なものではなく、「まぢでやるから」。
「茶番」を「まぢでやる」というのも不思議な表現です。
そうして結句の「楽しい、死後は」によって、ここで初めて、語り手はこれらが「死後」の世界であることをわたしたちに打ち明けます。
歌のなかで「ほのほ」を「あなたに渡す」「茶番」をしている動作の主体は、もはやこの世の者ではない。
幻想的な動作から、「茶番」を「まぢでやる」と翻り、さらには「死後は」ですべてがひっくり返される。
「まぢで」の現代語と文語体の掛け合わされた奇怪な表記と、「死後」との相性の良さにも驚きます。
ここではない世界線でひろげられる、穏やかで烈しくてかなしいじゃれ合いの一首。