『鷹の井戸』葛原妙子
夏至――二十四節季の一つで、北半球の昼がもっとも長く、夜がもっとも短い日。太陽暦ではおおむね六月の二十一日頃である。わたしは自分がその頃に生まれたせいか、夏至にはなにか親密な気分をもっている。しかしこの歌のように、夏至の日の気分を明確に感じたことも、分析したこともなかった。この一首、結句に至るまで「おもひ」という言葉を繰りかえして、ぼんやりとした物憂い感じを漂わせているが、この「卑しきこと」と「たふときこと」という相反する二つの中間に、夏至の日の存在感があるというのであろう。いや、この中間こそ平凡な日常的時間というのであろうか。「夏至の火の暗きに麦粥を焚きをればあなあはれあな蜜のにほひす」という歌もある。長い、白い生の時間の象徴として夏至の日を記憶させた歌である。一九七七年刊行。