『日の丸』渡辺幸一
作者は長いイギリス移住生活の後に、現在はイギリス国籍を持つ歌人である。移住とともにはじめたという歌を通して、欧州の一隅から日本を鋭く見つめ返す。この歌では「真夏の幻影」として、「苦しげに戦ぐ日の丸」を浮かび上がらせている。八月の日本における戦死者慰霊の行事に思いを馳せての「幻影」であろうが、「死者たちの群れ」を見下す「日の丸」の「苦しげ」な姿は、国というものの意味をあらためて問い返してくる。「イギリスに住み、英語で仕事をしながら、私にとって、母国語である日本語は、今もなお足許を照らす光であり、思索を切り開くためのメスである」と「あとがき」に記している。母国語としての日本語と、それによる歌という形式への深い思いが心に響く。さらに一首、「生き難き異土に生き来ぬ胸深く我には我の日の丸ありて」。二〇〇四年刊行の第二歌集。