麦縄といふ古き名を思ひつつ初秋しよしうの熱きうどんを食へり

『渾円球』高野公彦

「むぎなわ」を辞書に引くと、索餅(さくべい)のこととまず出てくる。索餅とは小麦粉と米の粉を練って、縄の形にねじって油で揚げた唐菓子の一種であるという。「むぎなわ」の二つ目の意味は饂飩または冷麦のこととある。ここでは二つ目の意味につかわれているようだが、ともあれ風情のある良い言葉である。この作者は言葉へのこだわりが深く、古い言葉や忘れられた言葉を発掘し、その意味や趣を蘇らせる名手である。いま作者は麦縄という言葉を思い起こしつつ、「初秋の熱きうどん」を食べているのである。夏の暑い盛りを過ぎて涼風を感じはじめると、「熱きうどん」が欲しくなるという身体の季節感が鮮やかに歌われているが、さらに言えば、初句に据えたこの「麦縄」という一語によって、「うどん」を食べる行為に季節以上の豊かな味わいがもたらされていることも確かだ。それはおそらく、「麦縄」という言葉に、日本人の郷愁の源である、麦と米が隠されているからだろう。二〇〇三年刊行。

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