『空白』江戸雪
秋の雨のあがった空を「箱のよう」という。ユニークな比喩である。それはどこまでも広がった空というのでなく、硬く、形のある空間の感じなのだろう。また「林檎」という言葉から林檎箱のイメージを呼び起こし、香しい空間をわたしに感じとらせもする。あの林檎を入れる木箱はこのごろあまり目にしなくなったが、そこには林檎ともみ殻が詰まっていた。さて問題は、その林檎が「知らず知らず裂けゆく」と歌われていることである。林檎が実るにしたがって身が「裂け」ていくことなのだろうが、実るといわず「裂けゆく」というところが独特だ。雨あがりの秋のきりりと澄んだ空気感が鋭く身体に沁みとおり、さらに一転して林檎の中身までを透視させている。むろん「林檎」は自分自身であろう。ここで歌集名が「空白」という言葉であることを思い出したわたしは、この一首には、空=殻(カラ)、身=実(ミ)という言葉のドラマが隠されていることも、ひそかに見出だすのである。二〇二〇年刊行の第七歌集。
