返事の来ない手紙を書きて出しにゆく赤きポストのある広場まで

『歩行者』三枝浩樹

 「返事の来ない手紙」とは何だろう。いや、それは問うまでもないだろう。わたしたちは誰でも日々「返事の来ない手紙」を書きつづけているといえるからだ。生きるという時間の中で、返事の来るものなど無いということを、この歌は逆説的に思い出させてくれる。そして、「返事の来ない」遥かな何かに向かって「手紙」を書きつづけることこそ、生きることだと知らせてくれる。「赤いポスト」を見つけよう、そうして「広場」まで歩いて行こうと、読み手を静かに誘っているようだ。この「赤いポスト」の灯る「広場」はあたたかく、どこか西洋的な雰囲気の場所のようでもある。作者はキリスト者であるので、それを背後においてこの歌の象徴的な言葉を読むこともできるだろう。だがわたしの中には、もっと自由に、精神をかたどる言葉として、自然体で語りかけてくるのである。二〇〇〇年刊行の第五歌集。

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