ひと抱へかしこに置きてわすれたる穂芒は銀霊となりゐつ

『鷹の井戸』葛原妙子

 穂芒は月への供え物として刈ってきたものであろう。「ひと抱へ」刈ってきた束を、月が出るまでの間「かしこ」に置いておき、そして忘れてしまったのである。しかしその少しの間に、「穂芒」は「銀霊」となっていたという。イネ科の多年草である芒は、秋の七草の尾花だが、その花穂ほど開く前と後とで印象が違うものも少ないだろう。開く前のしなしなとした柔らかい穂は、開いてほほけると一挙に膨れ、乾いた印象になる。葛原はそれを「銀霊」というのである。たしかに何かが起きたとしかいいようのない変わり方ではあるが、この「銀霊」という言葉には、まさしく人知の及ばない自然の霊力への畏敬が込められているだろう。そもそも月を仰ぐという行為にも、同じ畏れと憧憬が源にあるということを、葛原はたった一語で思い出させたといってもいい。穂芒の経験とともに忘れがたい一首である。一九七七年刊行。

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