俳優の演技終はりて曲げゐたる細枝しづかに戻す助手の手

岩井謙一『光弾』(2001)

 

 作者は、宮崎の焼酎会社にお勤めのはず。

 この一連は、屋久島で、その焼酎のCM撮影をする(監督する?)シーンである。ただ、この一首はそういう背景がなくても、よくわかる。

 

 いかにも自然に見えるような風景も、俳優の演技、つまりは芸術的かつ商業的理由によってねじまげられている可能性がある、と軽く告発する気持ちがひとつ。

 また、それはそうとして、人間の中にはきちんと自然に対して心配りのできる人がいるのだという言いたいことがもうひとつ。

 

 自然に対する人間の優しさ、というヒューマニズムだけではない。

 しかし、慌ただしい撮影現場で、ごく自然にささやかな配慮ができる人のプロの仕事ぶりを見て心が動いたことが確かだろう。

 岩井さんの歌は、硬質な思いの手触り感がある。自分の中の弱さをさらけだすためにはそうした硬質の感じが必要なのだろう。ただ、力技といえるような表現も多い。

 この一首のような素朴な視点をそのまま出した歌を筆者はいいと思うが。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です