澤村 斉美


曇天に赤きアドバルーン浮き上がり「つひのすみかがお買ひ得です」

笠井朱実『草色気流』

 

不動産の広告を載せたアドバルーンなのだろう。「終の棲家」をうたい文句に家を売っている。戸建かもしれないし、最近は介護や医療サービス付きの高齢者マンションの広告も増えているからマンションかもしれない。現代らしい町の風景を伝える一首だ。

「つひのすみかがお買ひ得です」という文句は、やさしい言い回しだけれど、不思議な感じもする。ものを買うのは、生きるためで、人は買って買って買い続ける。ついに死を想定した買い物もしなければならないのだが、そのときでさえ「お買い得」という言葉は人の心を若干なりとも揺り動かす(と売る側は信じている)。シュールでさびしくて、人間のはかなさがにじむ売り文句だなあと感じ入った。

ところで、死を想定した買い物といえば、納骨堂がある。子どもが遠くの土地へ出て行き、死後の墓の面倒を見る者がもういないという事態になったとき、永代供養付きの寺の納骨堂などは人気が高くて、しばしば抽選になるのだという。初老の夫婦の間で、

「じゃ、納骨堂の抽選に行ってくる」
「当たるといいねえ」
**
「当たった!当たったよ納骨堂!」
「わあよかった!これでもう安心だね」

なんて会話も普通に成り立つのかもしれない。普通の会話だが、よくよく考えるとなんだかシュールで、ちょっとかなしくて、私のような親不孝をしている子どもとしてはきゅっと身のちぢまる思いがする。このあたりの、死にまつわる現代の奇妙な光景と感情の動きはまだあまり短歌になっていないように思う。

 

 

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