黒瀬 珂瀾


菜の花にからし和えればしみじみと本音を聞きたい飛雄馬の姉さん

飯田有子『林檎貫通式』

 

春は色とりどりの花が咲く季節。なかでも特に、一面に菜の花が咲き広がるさまに、心を奪われたことのある人は多いだろう。山村暮鳥の「いちめんのなのはな…(以下繰り返し)」を思い出すまでもなく、鮮やかな黄色に覆われた風景は、季節が巡りくる喜びを伝える。

 

そんな菜の花畑から届けられた一把。目の前の器の中、春ならではのほろにがい季節の味に、ぴりりとしたからしを落とす。そのからしの黄色が、一面黄色の遠い風景を思い起こさせる。そうして作者は菜の花とからしを和えてゆく。おそらくは自分ひとりの食事のために。

 

その時に突然心に浮かぶのが、アニメ『巨人の星』の星明子。魔球を会得するための特訓を続ける、弟の飛雄馬と父の一徹らの「男の世界」を、影から見つめ続けたヒロイン。後には花形満と結婚し、自らの幸せを得る明子だけど、弟と父に捧げつくしたようなその青春。表立って不平不満を述べはしないけど、本音のところはどうなの、明子さん。からしが菜の花全体に和えられた、美しいさみどりを見つめながら、そんな疑問が湧く。

 

なんとなく、貧しいころの星家の食卓を連想させもする、ささやかな和風料理。もちろん、作者はちゃぶ台の前に座っている訳ではないだろうが、この小鉢の一品には、かつての日本女性の像が託されているようにも思う。作者はどこかで、女性であるがゆえの抑圧や葛藤を感じているのかもしれない。しみじみと本音を語りたいのは、作者の方じゃないだろうか。

 

   のしかかる腕がつぎつぎ現れて永遠に馬跳びの馬でいる夢