さよならの練習 春になりかけの空の白さにただ手を伸ばす

          千葉聡『今日の放課後、短歌部へ!』(2014年)

 

卒業式のシーズンだ。自分の卒業なんてさほど感慨もなく過ぎてしまったけれど、人生における卒業式は片手で数えられるくらいしかないのだ、と今になってようやく気づく。

作者は国語教諭として中学校や高校に勤務してきた。何度、卒業式を迎えても、この先生は胸がいっぱいになってしまう。小児がんを専門とする医師の細谷亮太さんは、多くの子どもたちを看取り、その度に涙してきた。「泣けなくなったら医者をやめる」というのが、細谷さんの信条だが、この歌の作者にも同じようなやわらかな感性を感じる。

「春になりかけの空」は淡い色をしていて、真夏の強い青とは全く違う。何だか頼りないようなペールブルーの「白さ」は、卒業してゆく生徒たちを思わせる。どんな色になるか、まだ分からない「白さ」でもあるだろうし、送り出す作者の寂しさが投影された色でもあるだろう。

卒業した生徒に、教師の手はもう届かない。これまで懸命に守り、励ましてきた子どもたちのことを思い、作者は空に向かって「手を伸ばす」。

人生は「さよならの練習」の連続である。練習を重ねて、大きな「さよなら」に耐えることもあれば、「練習」だと思っていたのに、あれこそが「さよなら」だったのだと分かることもある。「さよなら」に慣れることは、決してない。