今井恵子のアーカイブ

風鈴の垂れてしづけし戦争に移らん時の静けさに似て

親にスマホもPSPも取られて良かった自由ですと日誌にあり

遠くまで行った夢だよ トーストを焼いて渡して連れ合いに言う

馬上とはあきかぜを聴く高さなりパドックをゆるく行く馬と人

無花果の果実ざくりと開かれて雨の市場に身をさらしをり

波がしら一つに寄せて立ちあがり暗き濁りの岸にとどろく

名残思ふまくらに残る虫の音はゆめの跡とふ心地こそすれ

中垣のとなりの花の散る見てもつらきは春のあらしなりけり

けつたいなしぶい子やつたそれがかうほとりと美味い、渋柿を食ふ

鳥語 星語 草語さやかに秋立ちて晴れ女われの耳立ちにけり

氷売るこゑもいつしか聞きたえてちまたのやなぎ秋風ぞ吹く

食堂の黄なる硝子をさしのぞく山羊やぎの眼のごと秋はなつかし

うしろより『わ』とおどせしに、/先方の、おどろかざりし、/ ごとき寂しさ。

薄日さすしろい小皿に今朝もまたUSBを置く静かに

古屋根に雨ふる駅の小暗さがのどもと深く入りくるなり

すっくりと秋冥菊が咲きだして姉なき今年の秋がはじまる

除草用ヤギを貸出す広告に立ち止まりたり「食べつくします」

バスを待つ女生徒たちのその太き脚は、秋たけて葡萄踏む脚

たんぽぽがたんぽるぽるになったよう姓が変わったあとの世界は

くしゃっ、って笑うあなたがまぶしくてアップルパイのケースさみどり

飼い主にしたがう犬が家々のこぼれ灯拾い夕暮れを行く

鷺のかげ湖岸の砂に淡かりき少し離れて二羽又一羽

安曇野と筑摩野分けて夜の明けを白く遙けく梓川見ゆ

陸奥みちのくをふたわけざまにそびえたまふ蔵王の山の雲の中に立つ

しろじろとペンキ塗られし朝をゆきこの清潔さ不安なばかり

口ふれし水の感じをたもてれどさかりきていまとほき粗沢あらさは

山中に木ありて木には枝ありて枝に一羽を止まらせている

橋脚ははかなき寄辺よるべひたひたと河口をのぼる夕べの水の

やがて海へ出る夏の川あかるくてわれは映されながら沿いゆく

核実験大成功と歓声の上りたる場所トリニティサイト

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