今井恵子のアーカイブ

十二月二十八日午後二時のひかりのなかに二つの林檎

クローゼット等間隔に吊るされた薄い衣服が息吹き返す

みづからが飛べざる高さを空と呼び夕陽のさきへ鳥もゆくのか

残業の夜はいろいろ買ってきて食べてゐるプラスチック以外を

九条は好きださりながら降りだせばそれぞれの傘ひらく寂しさ

言擧げを吾はせねどもうら深く國を憂ふる者の一人ぞ

凍み豆腐干し柿大根 東北の手仕事に降る雪のつぶてが

広辞苑になくて大辞林にある「草生くさふ」よき名の草生さんに会ふ

幼らの輪のまんなかにめつむれる鬼が背後に負わされし闇

戰爭のたびに砂鐵をしたたらす暗き乳房のために禱るも

建築のあいまを燃やすあさやけを飛びながら死ぬ冬の鳥類

厨辺くりやべの大き水かめ厚氷あつごほり柄杓ひしやくもて割る水くむあな

風筋にのりてわづかの雪が飛ぶいづへに降りてあまれる雪か

欅木の黄葉のなかを一葉一葉丹念こめて散りゆく落葉

親指の爪ほどもなき消ゴムに推敲の一首またも消したり

映さざるものは見なくてよきものか辺野古の海をテレビは映さず

雪の上に影ひきて立つ裸木に耳を当つれば祖父おほちちのこゑ

不安げなる顔して病室に入りくるむすめよここだ父はここにゐる

吾子わこ遠く置きし旅の母の日に母なき子らの歌ひくれし歌

我ならぬ生命いのちの音をわが体内みぬちにききつつこころさびしむものを

薄翅に触れないように湯上りのおさなをタオルで包む 秋くる

くちびるは言葉をさぐるふりそそぐ秋の光のさはれないもの

もやの中ひかりて落ちるいくすじの分れてた会う光いくすじ

関節のやはき指もて髪の根を洗はれてをり今日は立冬

水の輪が水の輪に触れゐるやはらかなリズムのうへにまた雨が降る

柿の実のびつしりとつく木の下に落葉みづみづし厚く積もりて

ふと思ふ我を見守るあたたかき心に気附かず過ぎしことあらむ

台風の母は海なればゆりかごは大きく大きくそして濃き青

コスモスがもつれて咲いている駅にしゃがめば澱む夕影の中

秋明菊のひとつの花をめぐり飛び去りて行きたるしじみ蝶ひとつ

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