平岡直子のアーカイブ

ガラス一枚の外は奈落の深さにて五十階に食む鴨の胸肉

わが影に燕入りたり夕光(ゆうかげ)に折れ曲がるわが胸のあたりに

あらくさにしんしん死んでゆける夏黄のフリスビーと毛深き地蜂

カバに手を掛けてるヒトが穴だった顔はめパネルやればよかった

階段の底までくだり昼くらきコーヒー店に来てまづ眠る

足裏より夏来て床に滴りしすいかの匂いまばゆい午後だ

峠から無限にひろがる星空に吸えないタバコをすわされそうで

コーヒーの湯気を狼煙に星びとの西荻窪は荻窪の西

雪を踏むローファーの脚うしろから見ていて自分が椿と気づく

夕照はしづかに展くこの谷のPARCO三基を墓碑となすまで

セイムタイム セイムチャンネル セイムライフ 悪夢の続きだったとしても

pianist 左手にキウイのいろと右手にストロベリーの色と

差し向うさびしさしりて一脚の椅子とむきあう相聞歌篇

秋になれば秋が好きよと爪先でしずかにト音記号を描く

バレリーナみたいに脚をからませてガガンボのこんな軽い死にかた

噴水が今日のさいごの水たたみ広場に蝶やダリアさまよう

春の日のななめ懸垂ここからはひとりでいけと顔に降る花

Tシャツを千枚脱いだら目覚めたの すみやかに来てグラン・パ・ユング

四年前グアムで買った星型のにこにこシールを使い始める

ゆくりなく枯野へと鶴まひおりて風景が鶴一羽へちぢむ

トンネルとトンネルの間のみじかきに朽ちたる家を車窓は映す

くちなしの香るあたりが少し重く押しわけて夜のうちを歩めり

隠さずにどうしてそれを告げたのかはじめはまるでわからなかった

夜の道に呼ばれてふいをふりかへるそこには顔があまたありすぎ

生理中のFUCKは熱し/血の海をふたりつくづく眺めてしまう

日本中八十円切手で行くのかと訊きて息子の電話切れたり

星なのか東京なのかわからない深夜の窓に遠くを見れば

薄暮光けふは世界に触れ過ぎた指が減るまで石鹸で洗ふ

あの人が住む方(かた)より吹く風なれば風吹くだけで腫れる唇

何をしていても過ぎゆく風景に蝶番あり時折ひらく

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