平岡直子のアーカイブ

降圧剤一錠を嚥む夕まぐれ 五階まで来た蟻を祝へり

男の子となかよくなって飲みに行く帰りに光るサンリオショップ

くらがりにわがみづからの片手もて星なる時計を腕より外す

豚のいる村があってハムになるめぐりしずかに夕焼けてゆく

右眉の白髪一本切りたくて鏡のなかに入りゆく鋏

牛乳が切れたら次の牛乳をあぶない橋をわたるみたいに

ぼくの窓をかるくすりぬけ日本語のてざはりのない女の子たち

義母のよそうご飯かと思い振り向けば紫陽花白く低く咲きおり

がんばったところで誰も見ていない日本の北で窓開けている

チーズ濃く香る朝なり遠景に書物のごとき森ある九月

乳首透けたる服を纏へるをみならをよぎりて耳の無きゴッホまで

側溝を流れゆく水着脹(きぶく)れて家鴨(あひる)のような私を映す

月へするおびただしき數のアクセスとその切斷のお月見のよる

ドーナツに埋めようがない穴がありこんな時間に歯を磨いてる

泣き濡れているのはわたし高いビル全部沈めて立つのはわたし

木香薔薇の配線は入り組みながらすべての花を灯してゐたり

ひらくもののきれいなまひる 門、手紙、脚などへまた白い手が来る

見ゆるもの見ゆるまま描け目から手はぢれったく月のごとく遠かり

水族館(アカリウム)にタカアシガニを見てゐしはいつか誰かの子を生む器(うつは)

いっこうにかまわない土地をとられてもその土地に虫がねむっていても

ふくふくと小さくなりゆくベビーバスわたしのことは忘れてもいい

もう少し前に進まうとりあへず西友に行き砥石を買つた

イエスは三十四にて果てにき乾葡萄噛みつつ苦くおもふその年齒(とし)

マルボロをふかせる君に肺といふ逆さの桜いま咲きほこる

またひとつピアスの穴をやがて聞くミック・ジャガーの訃報のために

ママのバラの服のうしろにへびがいた/最近ゆめみのわるいここは

雄叫びに似て冬の陽が落ちてゆくしばし炎の髪となる森

自販機を見つけるまでは話さない獣みたいな食事のあとで

草木は怒りもたねば怒りたる人は紅葉のなかに入りゆく

山に来てほのかにおもふたそがれの街(まち)にのこせしわが靴(くつ)の音(おと)

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