平岡直子のアーカイブ

藍よりも愛はつめたし 夜の窓を右舷となしてきらめくピアノ

二階より眺むる街にひとびとの身に運びゆく季語の多かり

夜にチョコあげよう石田三成もあげよう

三叉路でいつも迷っているゆえに木になってしまった紅さるすべり

父母がゆらゆらなづむ夕つ方サイボーグのやうにあたしは速い

時計より出(い)で来て踊る人形の目線は遠き夏木立かも

泣いたあと君の右腕枕にして線路のようにずっと恋人

花束を買ふよろこびに引きかえて渡す紙幣はわづかに二枚

純白のヨーグルトムースのうへにのるペパーミントの栄光と孤独と

イソジンの一滴がうむ夕闇の喉にいつかの迷子のわたし

水銀の鈍きひかりに夏がゆきしまわれてゆく女のかかと

夢でみた場所が出てきてこの先は崖と書かれていて引き返す

七月の日照(ひでり)の庭にちひさなるとかげ光りて見えかくりする

喫茶より夏を見やれば木の札は「準備中」とふ面をむけをり

女子とかにほらって見せればモテるから小さな崖が体にほしい

飛沫(しぶき)上げ光の中にはしゃぎたるわれのやさしき歌返してよ

マネキンの首から上を棒につけ田んぼに挿している老母たち

蝿はどの教室も好きじゃないけれど階段を下りられないのだろう

存分に愉しみしゆゑ割れるのを待たずに捨てる緑のグラス

いれものが似ているだけでなぜだろうわかりあえるとおもってしまう

戦争に見えて思わずうろたえる「食事とコーヒー」の字体が変で

無口なる姉妹を産んで編み物も刺繍も蜘蛛のようにする母

終電のゆきたるのちの柿生駅灯りて駅の風格保つ

切り傷の乾ききらずに夏来たり交差点の百合はあたらし

どうしようもないことだけでできているアネモネだから夜を壊そう

堤防に続く景色に追いつかれそうでしずかに手袋はずす

シャンプーのきみのあたまの泡のまにあたしの家があったがながした

ゆるやかな心変わりで幽霊に会えなくなった八月のこれから

空白の原稿用紙ひとマスは注射のあとにはりつけたまま

八月の蟻がどんなに強そうに見えるとしてもそれは光だ

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