染野太朗のアーカイブ

カフェラテの泡にたゆたう葉脈をひとくちごとに引きのばしおり

ソファーに座りたるとき尻に触れしものあり声をあげて悔やめり

相槌を律義に打ちて馴(な)寄りくる生徒ありわれは何も与えず

おびただしき水仙の白咲かしめてケアホームの庭 愛は片寄る

妻の傘にわが傘ふれて干されゐる春の夜をひとりひとりのねむり

金箔のきらめきこぼし角を曲がる霊柩車なし冬至のまちに

宇宙から見れば今死ぬ吾の手が今死ぬ母の手を握りをり

母死なすことを決めたるわがあたま気づけば母が撫でてゐるなり

春の船、それからひかり溜め込んでゆっくり出航する夏の船

担架にて運ばれおらぶ父の声妹は録りいまだに聞かず

ドアの窓の真ん中にレモンドレッシングの広告はあり手のひらほどの

さうめん流しひゃーとさうめん流れゆきわれとわが母取り残されぬ

ことば持つゆゑのさびしさ人を恋ふにもあらざれど猫にもの言ふ

海だったはずのシャワーを浴びている さっきまでふたりがいた海の

心いま針のようなりひとすじの糸通さねば慰められぬ

目印に名前のシールではなくてばんそうこうを貼る友がいる

ねむたさとさびしさをよりわけたあとねむたさに寝る 春の新月

おしゃべりは咲いては枯れてまた咲いて矢車菊の蒼い夕暮れ

憧れの山田先輩念写して微笑む春の妹無垢なり

遠慮がちに恋打ち明くるひとのごと木漏れ日は吾子の指へと届く

すれ違うときの鼻歌をぼくはもらう さらに音楽は鳴り続ける

恋ですよ 芋の芋まで掘り起こしありったけポテトフライにしたい

君にしも遠ざかれるかあまりにも近づきたるか夢にうつらず

鳥ならばずっと飛ばずに嘴で何かを伝え合っていたいよ

死にいたる瞬間(とき)までつよくやくされし首さながらに ああ はるがくる

背をのばし歩かうとしてさびしいな袋のやうな身体をはこぶ

鯉がいて、立ち止まったらそれらしい速さで鯉は流れて行った

ガードレールに白く汚れた手のひらを黙っておくということ罪は

体調のすぐれぬ妻に付きまとい世話をしたがる息子を叱る

わたしより年上の馬世におらず今年も坂道(ここ)に木漏れ日がある

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