岩尾淳子のアーカイブ

ゆく雲はするどき影をはらめども言葉をもちてわれは来にけり

鳥語降る木を見上げゐる朝の道悲哀の声はみぢんもあらず

そのままのきみを愛するなんてのは品のないこと 秋 大正区

青き田に降りゐる雨の色見えず見えざることにやすらぎてをり

山あひにおりしずまれる白雲のしばしと見ればはや消えにけり

町をゆくすべての人は使者として夏の日暮れを音もなくゆく

ひたすらに面わまもれり悲しみの心しばらく我におこらず

ゆふぐれの駅を降りればけやき見ゆこんなきれいな帰宅あつたか

青鷺がないて飛びたつ風景もすでに心のなかの一枚

ふるさとは風のすみかとなりにけり人やははらふ庭の荻原

あの雲のすそをつまんで岸辺までぐいと引き寄せられないか、夏

雲のからだに骨はないのに悲しみという感情はつくづく勝手

おおぜいの人に交って立つときも寂しかったよこの交差点

夕日夕日東京衛戍監獄のあかき煉瓦塀ゆけどもつきなく

輪をかけて疎遠になっていくひとの輪っか水面におおきくひらく

野べに来て萩の古枝を折ることはいま来む秋の花のためこそ

容赦なくシンクに溜まる生ゴミはせめて何かのメタファーであれ

人みながねむる眞晝の野原なれ乗りてなき自轉車遠く過ぎたり

紅梅の花にひねもすこもり居てまだあるのかいとたづねつ

いつになく張り切っているポケットに今日は切符を任せてやるか

忽然と秘密は解けるトイレットペーパーの芯あらわるる朝

寝息だけがこの部屋の風 きみの気球はオクサス河を越えたところか

ワンピースが風に吹き飛ばされないための棒として駅のホームに立てり

ネアとぞ名乗る戀びと宵宵にダイヤモンドを砕くかなしも

いちじんのわたしは春の風である環状線の森ノ宮駅

世間よのなかは霰よなう 笹の葉のの さらさらさつと降るよなう

ルリカケス、ルリカケスつてつぶやいた すこし気持ちがあかるくなつた

大らかに夏雲はしる野の森の泉に足を洗ひてゆきぬ

流れないのなら僕はもう帰るよカシオペアを空に残して

梅の花りおほふ雪をつつみ持ち君に見せむと取ればにつつ

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