吉田隼人のアーカイブ

この冬のあい間あい間に春の風吹きいたり引きちぎられてゆく四季

思想誌を凶器のごとくあふれしめ書肆に兵士の裔ならびたつ

蛍火といふからには火 親指のふかづめを隠して受け取りつ

先生が指さすものをドイツ語で、いす、りんご、カーテン、これは、風

たましひにこゑなく行き場あらざるを午後の電車の窓に悲しむ

始祖鳥の自由研究 ノートからはみ出してゐる翼の図解

極彩の泥人形を掌に載せて……
いとおもむろにとり落そうとする──

ひろびろと夕さざ波の立つなべに死魚かたよりて白く光れり

わぎもこが捕へし蝶に留針とめばりをつと刺すを見て心をののく

腐れたるうをのまなこは光なし石となる日を待ちて我がゐる

ほのぐらきわがたましひの黄昏をかすかにともる黄蝋もあり

魂は人にむくろは我に露ながら夏野の夢のなごり碎くる

妖怪はいて怪獣はいなかった 帽子を脱いで沼を見ていた

きっぱりと降りる初霜 わたくしの嫌うひとにも苦しみはある

茫然と来りてまなこひきしむる生きいそぐもの蝶のいとなみ

壜詰の蟻をながしてやる夜の海は沖まで占領下なり

透明な魚を硝子の鉢に飼ふ少女は病める脊髄もちて

わがうちに崩壊しゆくものの音聞ゆるごとく窓に月照る

うみのほとり青の光につつまれて神はしだいに遠のきたまふ

かたはらにおく幻の椅子一つあくがれて待つ夜もなし今は

幻燈に青く雪ふる山見えてわれにこと問うかえらざる声

死後の世界はないと唱えしホーキング博士は死にて車椅子残る

あなただけ方舟に乗せられたなら何度も何度も手を振るからね

はなびらは花にはぐれてゆくものをいめゆ取り零されし残月

存在と存在の名はひびきあい棕櫚の葉擦れの内なる棕櫚よ

おもちゃ売り場の階までのこと階のこと記憶のどこをあたってもこわい

寺院シャルトルの薔薇窓をみて死にたきはこころ虔しきためにはあらず

ひとり きて しま の やしろ に くるる ひ を はしら に よりて ききし しほ の ね 

花くたしいたくな降りそ新墓の猫の柔毛に滲みやとほらむ

春の岬旅のをはりの鴎どり
うきつゝとほくなりにけるかも

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