晩年のあなたの冬に巻くようにあなたの首にマフラーを巻く

大森 静佳『てのひらを燃やす』(角川書店  2013年)

 

 マフラー。温かきもの。冬、首に巻けば、冷たい外気から守ってくれる。手編みのものが流行った時代もあった。巻き方にもトレンドがある。ボリュームのあるものをぐるぐる巻き付けたり、短いものをすっきりとまとめてコートの中に差し入れたり。色も柄も風合いも様々なものが出ているので、防寒着に合わせて選ぶのも楽しい。

 

 この歌は、上句のすべてが比喩であり、実際に内容の軸になっているのは下句、「あなたの首にマフラーを巻く」の部分である。巻いてあげられるくらいなので、「あなた」は恋人か家族か、いずれ親密な人であろう。

 興味深いのは、上句の比喩、マフラーを「晩年のあなたに巻く」ではなく、「晩年のあなたの冬に巻く」としているところである。前者ならば、一読してわかる。しかし、「冬に巻く」となった時に、大いなる冬をも包みうる、大いなるマフラーがだしぬけに現れてくる。そして、そのマフラーをふわりと巻かんとする大いなる手が現れてくる。それはもう女神のような手であるしかない。

 もっとも、この「冬に」の「に」は、対象ではなく、「冬という時期に」という、時を表す「に」としても読めるけれど。

 

 そんな比喩さながらに、今、あなたにマフラーを巻く時、そこには限りない労りと慈しみがあろう。

   「晩年のあなた」は年老いているだろうか。それとも、重い病気を抱えているだろうか。冬は寒さがいっそう身に沁みるだろう。あるいは、この「冬」は、凍えそうなあなたの心の象徴だろうか  

 そんないつかを想像しつつ、今、目の前の「あなた」へ優しく大切に巻いてあげたいと感じているのだ。

 

 翻って、マフラーは日本では、「襟巻」「首巻」と呼ばれている。首は要所である。そこに織物を巻きつけて守ってやるという振舞が意味深い。

 また、少し生々しい慣用句だが、首に縄をつけるなどの言い方があることを思えば、この行為はまじないのようでもある。ずっと共にいられるようにとの。なおさら、晩年にマフラーを巻くことを思い描くのは、予祝になる。いつかの日にも手を差し伸べられるよう、ずっと、傍に在りたいのだ。

 

 暖かい冬と言われているけれど、マフラーを巻いて出かけたい。その温もりを思った。

 

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