空の高さを想うとき恋人よハイル・ヒトラーのハイルって何?

穂村弘『シンジケート』

 

最近、岩波新書『独ソ戦』を読みはじめたのですが、
そうするとこの歌が思い出されてきました。

「ヒトラー」、「ヒットラー」が出てくる歌って、たぶんけっこうあると思います。

 

少年蝶を逸せり さはれ一瞬を漆黒のヒットラーの口髭  塚本邦雄

 

五十回の誕辰たんしんをむかふるヒットラー多分夫人ふじんは居らぬなるべし  斎藤茂吉

 

一首目はおそらく一番有名。
二首目の茂吉のはリアルタイムのヒットラーというか、昭和十四年の時事に即して作ったもののようです。日独伊三国同盟締結の前年だから、準同盟国の英雄という感じだったのかと思います。が、下句の観点は茂吉っぽい。五十歳になるが結婚していないらしい。ふうむ、みたいな関心を寄せている。

今日の歌は1980年代の歌。引用した二首と並べるときれいに戦中→戦後→80年代という構図にもなりそうですが。

「ハイル・ヒトラー」とは、ナチス・ドイツにおける総統ヒトラーへの称賛と忠誠をあらわすかけ声。「ハイル」はドイツ語の言祝ぎで「万歳」などに相当する意味だそうです。

高い空の下で恋人とそんな話をしている。
ノンポリ宣言みたいでもありますが、この歌を読むと、「ハイル・ヒトラー」という言葉の音の美しさって際立つ気がして、
意味をなくした「ハイル」の異国の響きと空の高さ、恋人といることの印象がくっきり一つに浮かぶ。

どうでもいいですが、わたしはドイツの原体験的なイメージというと「キャプテン翼」の西ドイツ代表のキャプテン、「カール・ハインツ・シュナイダーくん」が浮かびます。「若き皇帝」のニックネームを持つのですが、名前がむしろドイツの皇帝っぽかった。三つのパートを持つ名前を知らなかったし、まさにハインツって何? だった。

「Heinz」(ハインツ)だから、「Heil」(ハイル)の響きからすごくそれを思い出し、その異国の高貴で神秘的な響きって、同じ角度でわかる気がします。

そして、そんな響きが、人類的な惨禍をもたらしたものであるという強い両義性のポエジーがポイントなのかなと思います。

あとぐぐりながら書いていて思ったのですが、この下句って、スマートフォンの時代には出ないし、成立しないかもしれないですね。手元にスマホがあって常にぐぐれる状態だと出てこない言葉な気がする。そんなことも思いました。

 

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