春の雨降りやむまでを電話のない電話ボックスの中で待ってる

『遠い感』郡司和斗

一首が成り立っているのは、電話機のない電話ボックスという、一種ギャグのような空白の場所が選ばれていることによる。ケイタイ電話を一人が一台もつようになって、街中から公衆電話の姿が消えていった。しかし、電話機が取り外されても電話ボックスとして残っている場合もあり、そんな空白の場所で、作者は「春の雨降りやむまでを」「待つ」と歌うのである。

かつて、固定電話がコミュニケーションの道具として普及するにつれ、電話ボックスもまたわれわれにとっては大事なコミュニケーションの場所であった。今それが失われた中で、作者が「待つ」ものは果たして「春の雨」があがることだけなのだろうか。あるいは恋人への思いか、遠い未来か。空白の電話ボックスを舞台にしているだけに、この一首は「待つ」ことの意味をさまざまに暗示させるようである。二〇二三年刊行の作者の第一歌集。

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