『アボカドの種』俵万智
二〇二三年に出版された俵万智の最新歌集のタイトルともなっている一首。この歌への思いは「言葉から言葉をつむぐだけなら、たとえばA Iにだってできるだろう。心から言葉をつむぐとき、歌は命を持つのだと感じる」という「あとがき」に明らかだ。
俵はアボカドが好きで、種からの水耕栽培を楽しんでいるという。アボカドは成長がきわめてゆっくりの植物で、根がでるまでに三か月くらいかかるのだとも「あとがき」に記している。そしてその緩慢な成長の時間を「とても豊かだ」とも俵は語っている。今生きている時代へのメッセージを、日常的な情景として歌い、語ることに長けている作者であるが、それでも「心から言葉をつむぐ」には時間がいるというのである。歌集の終わりにはこんな言葉遊びのような歌もある。「言葉とは心の翼と思うときことばのこばこのこばとをとばす」。言葉の「こばと」を飛ばしつづける俵万智である。二〇二三年刊。