初詣帰りの道に野の草のハーブ引き抜き妻は手に持つ      

奥村晃作『ビビッと動く』

(2016・六花書林)

 

門松をたてたり、床の間に鏡餅を供えたり、家族揃ってお屠蘇を祝うというような、「お正月」は年々減ってきた。街を歩いも、年末年始に町全体がはしゃぐ様子もなく、イルミネーションも落着いた色調で輝いている。宗教研究者の島田裕巳氏は、宗教はどんどん衰退してゆくといっており、寺院経営の苦しさが報道されてもいる。それでも、門松をたてずとも初詣にはゆくという人は多いようで、三が日の神社仏閣はたいへんな賑わいをみせる。日本人の初詣にどれほど強い宗教性が感じられるかは別としても、新年の初詣は、日本人の意識習慣に根強く残ってゆく年中行事だろうと、わたしは思う。

 

『ビビッと動く』は著者の第15歌集。展覧会を巡り、旅行へ足を運ぶ。歌の素材は活動的な日々を思わす。掲載の歌は、そのなかの「妻」を歌ったもの。歌集の中で多いというのではないが、他に〈充分の時間あるのに注文の料理をせかす妻をなだめる〉などもあって印象に残った。

 

歌の、連れそって初詣をはたした夫妻は、ちょっと散歩にでましたよという風情である。妻は道端のハーブの茎を手に弄び、夫はそれを観察している。新年がくれば初詣をするが、「初詣」に特別な感情が動くのでもない。下句の細部描写が「初詣」にともすると被せられる先入観を無化してしまうところに注目したい。強靱な観察の目がある。

 

次のような歌と並べると、奥村のとなえる「ただごと歌」のターゲットがどこにあるかよりはっきりとする。

 

オフィーリア仰向けに寝て水漬きつつ手首と顔を空気にさらす

緑金の背美しきコガネムシ葉に載って食うヒメリンゴの葉を