澤村 斉美


白鳥の飛来地をいくつ隠したる東北のやはらかき肉体は

大口玲子『ひたかみ』(2005年)

3月の東北を一人で旅したことがある。宮城から青森へ鈍行列車で北上しながら、田畑に積もった雪や芽吹きには遠い木立を見た。東北の冬の厳しさを、旅の途上の短い間とはいえ肌で感じたものだ。

掲出歌は、その東北を「やはらかき肉体」と捉える。歌集ではこの歌の前に

曖昧な言葉振り切りゆくやうに白鳥は伊豆沼を飛び立てり

という歌がある。伊豆沼は宮城県栗原市にあり、白鳥などの渡り鳥の飛来地として有名だ。冬になるとさらに寒い北の方から何万羽もの白鳥が飛来し、越冬するという。その伊豆沼のような白鳥の飛来地を、東北の大地はいくつ秘めていることだろうと詠う。水辺は、旅する鳥たちを養い、ひと冬を生き延びさせる。その数々の水辺に、家のようなおおらかさと優しさを作者は感受しているのだろう。一見すると厳しいばかりの冬の東北が、その大地の起伏のうちに大も小も、いくつもの「家」を秘め、静かに鳥を養う。「やはらかき肉体」という喩えに、東北の自然のしなやかな在り方を読むことができる。

東京から東北へ移り住んだ作者は、東北のさまざまな面を見る。第2歌集『東北』、第3歌集『ひたかみ』でそれらは詠われてきたが、東北という土地、文化と正面から取り組もうという意志が揺らぐことがない。「白鳥の飛来地」の歌は、短歌を通して東北と向き合ってきた作者が東北を愛(お)しむ、情の深い1首である。