江戸 雪


冬の朝つめたき陶となる髪に従容と来てひとは唇触る

佐竹彌生『雁の書』(1971年)

冷えきった冬の朝。外は雪が積もっているかもしれない。

しんと張りつめたような冷気をはっきりと感じるのは、「つめたき陶となる髪」の存在のせいだ。
「髪」を歌に詠みこむとき、それはとても重要な役わりを果たす場合が多い。この歌においてもやはり「髪」は作者のこころのありようを表していて、場面の中心にある。ただし、ありがちな乱れやすい熱い情念の象徴としてではなく、朝のつめたく沈静した存在として登場し、肌の冷えとはまたちがう冷えを感じるさせる。
「陶」はいわゆる陶器だろう。冷えのみならず、質感もまた堅さを強調している。

そこに、ひとりの人が登場して、印象が一変する。
〈ゆったりと〉などではなく、「従容と」という漢語表現に緊迫感がある。
陶器のように冷たい髪のわたしのもとへ、あわてるでもなくゆったりと人はやってきて、そして、その髪に唇を寄せる。
なんと静かな、なんと熱い愛の行為だろう。

冬の朝の冷たさをつたえていたはずの「髪」は、一首を読みおえたとき、抑制された深い愛を受けとめるものとして、清らかさと充足感を読者の胸へとつたえる。