前田康子


四ツ橋筋に欄間屋ありてうつくしき欄間の彫りにひびく街音

水沢遙子『空の渚』(2010)

 

四ツ橋筋とは大阪の南北を走る大きな道路で、その道沿いにはオフィスビルや商業施設が立ち並んでいる賑やかなところだ。その店のひとつに欄間屋があるという。さまざまな手彫りの欄間が美術品のように店に並べてあるのだろう。その欄間に大阪の町のざわめきが響いているのだ。欄間という古めかしいものと、若者が最先端のものを求めて歩く大阪の街、二つの取り合わせが一首の中で絶妙である。

 

飯山の寺町の昼仏壇屋に大き仏壇並ぶはさびし

 

こんな歌もある。長野に旅をした時の歌であろうか。寺町という町に仏壇屋がありそこに大きな仏壇が並んでいる。このごろは現代的なコンパクトな仏壇もあるようだが、この店には昔ながらの立派な仏壇が並んでいたのだ。その仏壇それぞれが値段をつけられ、新しい死者を待っている店先。静かな真昼の町を歩きながら作者は寂しくそれを見ている。

 

蔓棚(パーゴラ)はひづみて見ゆるコンタクトレンズの左右(さう)をたがへしごとく

方眼罫のノートをひらけば静寂は波の文様となりてゆらげる

 

これらは視覚を感覚的に詠んでいて、一首目は、藤棚のようなものをじっと見つめているのだろうか。蔓のうねりや絡みにだんだんと空間が歪んでくるような錯覚に襲われてくる。下句の比喩が面白い。二枚のコンタクトレンズは左右をつけ間違えることがよくあるが、間違えると全く両方が見えなくなり視界がおかしくなる。その感覚が不思議な感じで表されている。

また二首目は方眼罫の細かな線があるノートをひらいたところ。交差している直線は時間が経つにつれて波のような曲線へと変わって見えてきた。視覚のトリックのようで、これもよくわかる一首だ。

 

緑葉系エアプランツ メドゥサのほのと尖れる葉に霧を吹く

剣状葉と線形葉の植物の乱れ(すさ)べる声は夜ふけて

 

一首目のエアプランツは、このごろはやりの水も土もいらない不思議な植物だ。その種類の名前が「メドゥサ」だとは知らなかった。少し無気味な感じがいかにもという名称だ。新しい素材をいち早く歌に取り入れている。二首目では「剣状葉」はカキツバタのように先が尖った葉のこと、「線形葉」は樅の木の葉のような細いものだろうか。直接、植物名を出さずに葉の特徴で風に乱れている様子を表している。剣と線が闘っているようなイメージが浮かぶ。

 

延齢草の三つの萼の紫を見るよろこびもただすぎてゆく

 

このような静かな歌も好きだった。珍しい延齢草という花を見ていて、上の句は三角形の花の特徴を表している。下句では見ている喜びを感じつつも、時間がそのまま流れてゆき、気持ちの平坦な流れ方にどこか寂しさを感じる。