松村 由利子


停車せるドアより入れるうぐいすの一声乗せて列車動けり

          岩井謙一『原子(アトム)の死』(2012年)

 

ウグイスが各地で鳴き始めた。日本は南北に細長いので、意外に植生や生物相が異なるのだが、ウグイスは全国どこでも春を告げる鳥として愛されている。

気象庁は、「ヒバリ初鳴き」「ツバメ初見」といった生物の動向を季節観測の指標にしており、ウグイスの初鳴きもその一つである。歌の作者は、仕事で列車に乗っていたのだろうか。ある駅で停車したときに思いがけず、「うぐいすの一声」が外から聞こえてきたことに、春の訪れを感じた喜びが詠われている。

きちんとしたデッサンを見るような写生詠だ。列車が止まって扉が開いてから、再び扉が閉まって動き出すまでの数分間の出来事が、何だか短篇映画のように描かれている。淡々とした描写なのに、作者の感じた驚きと嬉しさがありありと感じられるし、「うぐいす」そのものが列車に乗り込んだような表現がとても魅力的だ。上の句で「~うぐいすの」と言って軽く息継ぎした次の瞬間、「一声」が来る楽しさといったらない。

この歌の抒情は、万葉の昔と変わらないのではないだろうか。「列車」や「ドア」といった言葉はあるけれど、句切れのない韻律のなめらかさは春の風情そのものであり、読む方もしあわせな気分になる。