小学生のふりしてきたといふやうに子はランドセルすとんと落とす

          永守恭子『象の鼻』(2000年)

 

新1年生のランドセルは、この時期、どうしてあんなに大きく見えるのだろう。2学期、3学期になると、小柄な子でもそれほどは大きく見えなくなるというのに。

この歌の「子」は、1年生ではないだろう。習いたての字に興奮し、初めての学校生活が嬉しくてならない時期が過ぎ、友達関係や手ごわくなってきた勉強に、少しばかり屈託を抱くようになった年齢かな、と思う。

「やれやれ、小学生も楽じゃないよ」とばかりに、「ランドセルすとんと落とす」様子に、母親である作者は苦笑する。どこか案じる部分もあるかもしれない。「大丈夫かな、深刻な悩みを抱いているのではないかな……」

ランドセルを乱暴に投げつければ、それはそれでドラマになるが、この歌では「すとん」が効いている。「はぁ…」という子どもの浅いため息が聞こえるような、そんな小さな屈託は、子どもの成長ぶりを示すものでもある。そっと見守っている母親の姿も窺われ、読むたびに胸がきゅっと詰まる。