さいかち 真


一つ二つ小石にまじる青蜆萌えいづる春の色にもあるかな

若山喜志子『女流十人集』(中河與一編・昭和十七年五月刊)

 春の水辺に稚貝のやさしい色を見出すと、しあわせな気持ちにさせられる。この時期のちょっとした散策は、海でも山でも気持ちのいいものだ。

 掲出歌の次には、牡丹の花のつぼみの歌がある。これも引いてみよう。

 

わがをらぬ家に気を張りわが乙女牡丹の咲くを待つといふかも

 

四月の牡丹は急に大きく葉を伸ばして、先端に大きな花芽をふくらませ始めるから、見ている方は、だんだん期待が高まって来る。いつ咲くだろうかと待って居る時間が楽しい。

せっかくだから、しばらく合同歌集『女流十人集』を取り上げる。編者の中河與一の戦時中の動き方については、篠弘がかなり厳しいことを何度か書いているから、興味のある方はそちらに当たるといいだろう。しかし、この歌集は『新風十人』と比べると論じられなすぎる気がする。戦時中の刊行で、しかも戦争直後は短歌そのものに逆風が吹いたなかで抹消を免れた本自体が少ないのかもしれないが、私自身はここ数年古書店店頭の晒し棚などでけっこう見かけている。要はあまり大事にされない本なのであろう。なんで出て来たかというと、この本を捨てないで大切にとっておいた年代の方々が亡くなられたからだ。本にも本の運命というものがある。女流だけを集めた集成であるということ、また編者が文学的な戦犯の中河與一であること、さらに戦意高揚的な作品が入っているということで、短歌史でもきちんと扱われない。

参加者は掲載順に名前を記すと、与謝野晶子、四賀光子、若山喜志子、今井邦子、杉浦翠子、中河幹子、岸野愛子、吉川たき子、齋藤史、倉地與年子と、実に錚々たるメンバーが集められている。装丁棟方志功。冨士書店刊の四六判二百二十ページの本である。