中川宏子『右耳の鳩』(2011年)
本来、健康維持は自分のためにするものだが、作者は至極まじめな人なのだろう。「健やかなドナーになるため」に、朝の散歩を欠かさないようだ。その可笑しみだけでも詠ませるが、結句に「たんぽぽ」を持ってきたところで、読後感のよい一首となった。
作者は「命」ということを、深く考えている人だと思う。だから、もしかしたらドナー登録しているのかもしれない。登録していなかったとしても、いつか自分の身体が他者の役に立つ日が来るかもしれない、という想像を働かせるところに感じ入る。
「黄のたんぽぽ」で、一首の印象がぱっと明るくなる。ああ、たんぽぽも人も、今を懸命に生きているのだな。そんな気持ちにさせられる。一輪のたんぽぽを朝見つけることで、一日がずっと幸せに感じられるのだから、自分にできることはいろいろあるはず……。たんぽぽの存在にも気づかないで、ずんずん通り過ぎてしまう人も多いのだ。歌を詠むということは、何かを発見することだと改めて思わされる。
編集部より:中川宏子歌集『右耳の鳩』は、こちら↓
http://www.sunagoya.com/shop/products/detail.php?product_id=672