学歴は二の次にして腕力でモテるひとたち 獅子、カムヒア

野口あや子 『かなしき玩具譚』(2015年)

                  ※「獅子」に「ライオン」とルビ。

 里見弴の『極楽とんぼ』という小説が私は好きで、これは岩波文庫ではじめて読んだのだが、それを福武書店が一九八三年に「文芸選書」というシリーズで出していたものを古書で見つけて、すぐに買ったのは、解説を丸谷才一が書いていたからだ。この解説の文章が、またいいのである。里見弴は戦前の遊び人の代表みたいな人であるが、スケールが大きい作家で、社会を上から下まで縦断する小説を書くことができたというのが丸谷の論の骨子である。

それで、里見弴とは何の関係もなく、以下は言葉の綾で書いていくのだが、野口あや子が「極楽とんぼ」だなんて思わないが、野口あや子は、「極楽」を飛ぶ「とんぼ」かもしれない、なんて訳の分からないことを考えついて、どうかなあ、この比喩は。などと自問自答して楽しんでいる私は、ばかかもしれない。少なくとも読み手をばかにしてくれる作者というのは、うれしいし、作者としては捨て身でやっているのだろうとは思いつつも、読む方は、野口あや子の無我夢中で飛んでいる姿を見るのがうれしいのである。私はそれ以外のものを作者にはもとめない。とんぼは、あの大きな口で野原を滑空しつつばりばりと種々の虫を噛んで食べてしまうのだが、彼らは空中を宙返りしながら必ずやエクスタシーを覚えているにちがいないのである。