松村 由利子


円満の秘訣は一割言はぬこと 南瓜の種を匙で抉りぬ

          井川まさみ『桜の家』(2015年)

 

一字あけ、というものは歌を立体的にする。この一首は、上の句で夫婦円満を維持する秘訣は、相手に言いたい不満の一割程度は言わないでおくこと、と述べ、下の句で屈託ありげにカボチャの種をスプーンでこそぎ取っているところに面白みがある。

「一割」について、「なるほど!」と思う人もいるだろうし、「それはかなり少ないのではないか」と疑問を抱く人もいるだろう。私など歌を面白くしたいから、「半分」とか「七割」とした方がよいのではないかと考えてしまう。そもそも「一割」であるのが、「円満」な証拠のようにも読める。

しかし、言いたいことの九割を相手に伝えるというのは、実は大変なことであり、誠実な態度なのだ。お互い違う人間なのだから、言わなければ分からないことの方が多い。だから、きちんと伝えるべきことは伝えなければならない。けれども、夫婦であっても触れてはならぬこと、言ってはならぬことがある。だから「一割」なのだと思うと、この一首は本当に深い。