まはだかのことばひりひりはきはきと「二度ととうさんとはあそばない」

本多稜『こどもたんか』(平成24年、角川書店)

 タイトルが示すように、前篇が子供の歌で埋め尽くされたユニークな歌集である。山岳歌人、国際ビジネスマンという印象が強かった作者の改定における意外な面を見るようで面白かった。

 子供は二歳位であろうか。若い父親である作者は子供と遊ぶのが楽しくてたまらない。子供も普段は忙しい父親が遊んでくれるのがうれしい。しかし、遊んでいる中で時々行き違いが出て来る。親の方は、おっと機嫌を損ねたかなと思うのだが、子供の方はかなり真剣である。子供は親に対してできる「報復」の手段を考える。それが「二度ととうさんとはあそばない」なのである。子供は、この「恫喝」の効果を疑わない。自分は父さんと遊べなくなったら悲しい。だから、父さんも自分と遊べなくなったっら悲しいはずだ。この論理に基づく「最後通牒」で親は反省・譲歩するはずだと幼いながらの打算を巡らせる。

 その子供の「恫喝」を作者は「まはだまかのことば」だと思い、「ひりひりはきはき」だと思うのである。遊ばないということの絶対性を子供は疑わない。作者にとってそれは一切の虚飾性を排した真の言葉であり、その意味で、まさに「まはだかのことば」なのである。また、その言葉は子供の期待とは違う意味で作者に衝撃を与える。子供のその真剣さはまさに「ひりひりはりはり」と作者を打つのでである。

 全体にひらがなを多用していることや、子供の言葉をそのまま歌に引き込んでいることは、親としての上から目線ではなく、あくまで子供の目線まで身を低くして歌おうという姿勢であろう。下句は「二度ととうさん/とは遊ばない」と句跨りできちんと十四音に収まっている。俵万智の帯文に「スナップ写真のように生き生きと子どもをとらえた歌の数々」とあるもの頷ける。

  聞けよ父は何でもなんでも出来るのだ母乳をくれてやる以外なら

  ぼくはもう自由の身だよお着替えも歯磨きだってやっちゃったから

  はっきりと言える言葉はまずママでその次がイヤッ他はまだなし