江戸 雪


往還の道の辺にある丸き石 この石にだけは勝たむと思ふ

香川ヒサ『マテシス(Mathesis)』(1992年)

生きていると、しばしばだれかを大事におもったり憎んだり、なにかに怒ったり悲しんだり、そして喜んだりする。
そんな感情の波に揺さぶられて、自分がなにものなのか、どう生きねばならないのかを見失ってしまいそうになることがあって、とてもしんどい。
しかしどんなときにも、<あそび>をもつことによってなんとかなるとおもうことができる。
<あそび>は余裕ともいう。それはとても豊かなことだ。

内面が豊かになるにはどうしたらいいか。
ひとつは囚われないこと。なにかが起こったときに、そのことに執着せず、ぼんやり空の雲などをながめみる。そうすると、感情にぐらぐらになっていたことが人ごとにおもえてきたりする。

往還。ゆきかえる道。いつもの道。
なんとなく鬱々として、挫折感のようなものが胸に渦巻いている日。そんな日は誰にでもあるのではないだろうか。
無造作に転がっている「丸き石」に気づく。石は生きものではなく、じっとそこにある。

じっとそこにある石。よし、この石にだけは負けない。

このような気持ちの転換は、余裕がないとできないだろう。
じぶんがすべてではない。
じぶんは石のひとつなのだ。