鈴木晴香『夜にあやまってくれ』
(2016年、書肆侃侃房)
〈君〉とともに地続きならぬ空続きの雨に濡れているのではなく、自分は濡れそうでまだ濡れていない。“未遂”の状態が官能を呼ぶ一首です。
乞うように裸足のままで受け取ったダンボール思ったより軽くて
同じ章にある歌で、こちらは荷を通じてその発送者とつながった一瞬をうたっています。ただ、受け取ったとき予想外に軽く、手からふわっと浮くような感じがしたのでしょう。期待の重さを動作と身体の描写であらわした上の句との非対称感がおもしろいところです。
“未遂”から一歩進んでも“定着”にはなかなかいたらないことのかなしさと、たのしさ。
上の2首はいずれも下の句の句切れがはっきりしません。〈ここにも降りそ/うで降らなくて〉〈ダンボール思/ったより軽くて〉と無理に77音や78音に切っては読めないリズムです。こうしたリズムの歌はここ十数年でずいぶん増えました。
口語は文語より助動詞が間延びしやすいためか、現在の短歌は57577というより5/12/14とか12/19とか、計31音のなかで部屋の仕切りを任意にはずすようにつくられることが多くなっており、上の歌もその典型といえます。
しかし、〈ここにも降りそ/うで降らなくて〉とあえて切ってみると、本来の短歌形式に対する“未遂”感が意識され、背徳的(?)なときめきが生じるともいえます。
規則を守る顔をして、どこかで仕切りをはずす快感が。
交番の前では守る信号の赤が照らしている頬と頬