黒田雪子『星と切符』
(2011年、私家版)
2003年の短歌研究新人賞受賞作「星と切符」がベースの連作より。オリオン座の季節に思いだす歌です。
星、二十歳、といえば長らく短歌愛好家は次のような歌を連想してきました。
夜の帳[ちやう]にささめき尽きし星の今を下界[げかい]の人の鬢のほつれよ
その子二十[はたち]櫛にながるる黒髪のおごりの春のうつくしきかな
与謝野晶子『みだれ髪』冒頭のこうした歌は、自分そして自分がいる場所の人々を美しい存在として迷いなくうたっています。愛される存在と言いかえてもよいでしょう。星に見まもられ春に包まれて、人は自尊心をたしかにします。
そんな超越的な愛を信じることは現代人にはむずかしく、すると自分を美しいと思うこともなくなります。
掲出歌の〈みにくけれども〉は、醜いと他人から言われたという以前に、自分のことを醜く感じてしまう自意識がなす断定でもあるでしょう。
醜いから愛されない。
そう思うのはつらいことですが、〈おもてを伏せず〉にいようと言います。自分で自分を愛するために。
星に自尊心を支えられるのでなく、星と対等に。星座が神話の美青年オリオンを象っていることを考えるとき、この歌はフェミニズムのニュアンスも帯びます。
あとがきによると、短歌を離れるために編まれた集とのこと。作者にとって短歌は人生の旅の美しい通過点でした。ふたたび訪れる可能性があろうとなかろうと。
ランボオもさまよう〈形而上学の旅〉の切符は書肆オリオンで