光森裕樹


しみじみと三月の空ははれあがりもしもし山崎方代ですが

山崎方代『こんなもんじゃ 山崎方代歌集』(文藝春秋:2003年)


(☜5月5日(金)「月と空 (4月)」より続く)

 

◆ 月と空 (3月)

 

三月の晴れ上がった空を見上げる。そこに続く「もしもし山崎方代ですが」という話し言葉は誰に向けられたものだろう。誰かを電話口に呼び出して、あるいは、誰かを訪れて「もしもし」と名告るとも考えられるし、三月の空につぶやくように話しかけているように思われる。
 

「もしもし」という相手がいてこそ成り立つ言葉がありつつも、一首にはその相手は登場しない。その、なんだかぽつねんとした感覚が、どこまでも広がる空を前に強調される。
 

山崎方代の歌集を開けば、自分自身を「方代」と呼ぶ歌に出会うのは容易い。
 

庖丁の錆を落としてねてしまうただそれだけの方代と風  『方代』
天にのびる高き教会の石垣の下にころがる方代と石ころ

 

「方代と◯◯」と並列させることで「方代=◯◯」という比喩になっている。風でもあり、石ころでもある自分自身。同時に、自分という存在から離れてどこか上空から見下ろしているようにも思える方代らしい歌と言える。
 

このわれが山崎方代であると云うこの感情をまずあばくべし

 
 

(☞次回、5月10日(水)「月と空 (2月)」へと続く)