干場しおり『天使がきらり』(河出書房新社:1993年)
(☜5月8日(月)「月と空 (3月)」より続く)
◆ 月と空 (2月)
冷たい二月の空に出る月の下で、大事な約束をふと破ってしまいたくなる。誰と結んだどのような約束かは分からない。月に人を狂わせる力があるという話はよくあるものだが、一首ではもっと気軽な仕返しのように約束を破ってみようと考えている様が「つんと」という表現に表れている。
「つんと」という指で突き破るような行為を想像させる言葉は、「もりあがる(月)」との間にゆるやかな繋がりがある。地平線からのぼりつつある月を「もりあがる」と表現したのか、あるいは天頂を目指してゆっくりと確実に動いていく月を「もりあがる」と表現したのかは読みが別れるかもしれない。いずれにせよ、一首を読むと、約束と同時にまるで月をもつんと破ってしまうようなイメージが浮かぶ。
同じ連作「天使がきらり」に、二月を舞台にした次の歌があった。
だとしたらどうしたらいい狂うほど二月の雨は強く冷たく
月の下ではなく、冷たい雨の中で狂うほどに迷う。「約束をつんと〜」という状況より、張り詰めた想いに切羽詰った感じがある。
(☞次回、5月12日(金)「月と空 (1月)」へと続く)