中野愛菜「点滅」(『上終歌会』01:2017年)
◆ 学生短歌会の歌 (1)
約束を守れなかったことを思いつつ、ブローチを刺して留める。「刺す」という表現に、自らを戒めるような様子を感じさせるが、一字空けの効果もあって、それはそれとして気分を区切って外に出ていくような雰囲気もある。
「約束も守れなかった」ことと並べられていることが、「朝顔は咲かなかった」ことである点が面白い。例えば、「酷いことを言ったし約束も守れなかった」であれば、全面的に当人が悪いということになる。しかし、朝顔が咲かなかったのは朝顔の都合であり、誰のせいでもないだろう。
そんなことまで自分に要因があると、つきつめて思っているのか、それとも、約束が守れなかったことも咲かなかった朝顔のように仕方がなかったこととして感じているのか、一首はどちらにも解釈することができる。
ブローチというやや古風な装飾具(と、思うのは世代に拠るのか)には、そのものの実体としても重さを感じさせ、一首を深く印象づける。
百円の桃の話が語られて前髪にしんとあてがわれる鋏記憶の雪は四十五度にふっている窓の対角にきらきらとして
同じ連作から引いた。髪を切られるとき、どこかの部屋で窓の外を見ているとき、そこには他者がいるようでいて、ひとりしかいないような静かさがある。
掲出歌も、約束した相手がいたり、ブローチを見るであろう誰かの存在を感じさせたりしつつも、やはりひとりの静かさが一首ににじみ出ている。
(☞次回、7月18日(金)「学生短歌会の歌 (2)」へと続く)