久我 田鶴子


よく聞いて応へて詫びて赦されてさういふものになつてしまつた

和嶋 勝利 『うたとり』 本阿弥書店 2019年

 

「聞く」「応へる」「詫びる」「赦される」「なる」、一首の中に動詞が5つも。

「さういふものになつてしまつた」の下地には、宮沢賢治の「サウイフモノニワタシハナリタイ」がある。

となれば、「よく聞いて応へて詫びて赦されて」と動詞がつづくのも、「東ニ病気ノコドモアレバ行ッテ看病シテヤリ 西ニツカレタ母アレバ行ッテソノ稲ノ束ヲ負ヒ 南ニ死ニサウナ人アレバ行ッテコハガラナクテモイイトイヒ」と続く、賢治の「雨ニモ負ケズ」が下地になっているのである。動きが終止することなく、どこまでも続いてゆく。

作者は、証券会社に勤務。

あるとき、「お客さま相談室」への異動の辞令が出た。そこでの業務のほとんどがクレーム処理だという。「よく聞いて応へて詫びて赦されて」という日々の始まりであった。

 

紛争に分け入り分け入り手繰りたる蛇のやうなる落としどころを

謝罪ならいらぬとなれば出る幕もなく出るとこに出ることとなる

ひややかに調査かさねてひたすらに秘すべき秋や〈秋〉は〈秘〉に似る

 

なかなか大変な業務のようだ。嫌な役割でもある。

時には「蛇のやうなる落としどころ」に落ち着かせ、時には訴訟になることもあり、時にはマル秘扱いにしなければならない調査結果もあり……。

内容はかなり深刻だが、歌はどこか余裕がある。

「分け入り分け入り手繰りたる蛇のやうなる」という比喩の面白さ。真実は藪の中、といった感じだ。

「出る幕もなく出るとこに出ることとなる」と、三回繰り返された「出る」は、そうとう怒っている感じ。怒っているけれど、執拗に繰り返された「出る」には遊びもある。

ややかに」「たすらに」「すべき」と、「ひ」音を重ね、「秘すべき秋」から〈秋〉と〈秘〉の文字の類似性へ。この歌もかなり遊んでいる。

こんなんでも表現しないことにはやってられませんわ、といったところか。

ユーモアに転じてゆくときの、状況の客観視と批評性。

「さういふものになつてしまつた」と言うのは、ぼやきのようだが、覚悟を決めて仕事に励んでいるのである。

 

〝うたとり〟は美しい声の鳥にあらず報告さるる疑はしい取引