大松 達知


もう充分にあなたのことを思つたから今日のわたしは曼珠沙華

宮英子『海嶺』(1999)

 

 「あなた」とはもちろん宮柊二。

 柊二は1986年12月11日没。今年で24回目の命日である。

 

 筆者はこの歌が「コスモス」東京歌会に提出された日に立ち会った。

 無記名の歌会で、プリントが配られて読む。だれかが、こんな破調の歌じゃあしょうがないですよねえ、宮さん、と言っているのが聞こえた。英子さんはにこにこ笑っていらした。

 たしかに、7・7・6・7・5の破調である。一首だけを取り出す歌会ではヘタな作者の作品と推測されたかもしれない。

 しかし、作者名がわかれば、柊二と英子さんの深い深い夫婦の愛とか、柊二を失って長い悲しみの中にある英子さんの姿とか、そこから自然と抜け出てくる洒脱な英子さんの人間的魅力とか、もろもろのことがわかる。

 

 すると、なかなかの名歌に見えてくる。

 初句の字余りは、柊二を思う気持ちの重さと濃さを、結句は柊二のいない欠落感と悲しみを、リズム面から補強している。

 もし、「充分にあなたのことを思つたから今日の私は曼珠沙華なり」としてしまったら、平凡な歌である。

 絶唱というのは、定型をも壊すものなのだ。